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ちょっと気になったこと。


 にこにこできる動画でとあるコメントを見つけました。
「ギルガメッシュ=王と神が同一視されてた時代・つまりギルは神として臣民の上に立った」
 これを見た瞬間、引っかかりを覚えました。
 Fate/Zeroのギルガメッシュって「ギルガメシュ叙事詩」の主人公ですよね。で、ギルガメシュはウルク第一王朝の王であったはずです。
 ウルク第一王朝はまだ初期王朝時代であり、この時代の王は己を都市神に使える者としています。都市は神のものであり、それを神の代わりに人間が管理・運営している、という考え方ですね。
 己を神格化する王はアッカド王朝時代のナラムシンが最初とされています。
 つまり、ウルク第一王朝の人々のなかに王=神という考えはなかったはず。
 で、不思議だな~と思ってちょっとウィキで調べてみたら、ウルク第一王朝の王たちは神話的・伝説的な記録でしかないらしいですね。つまり作られた王であるということです。モデルになった人物はいたでしょうが、2310年統治したとか、人間ではありえない=神話・伝説上の人物ということになります。
 このウルク第一王朝の王のなかにギルガメシュが含まれます。
 もともとギルガメシュ叙事詩最古の写本は紀元前2000年期初頭に作られたそうですが、このころにはウルク第一王朝どころか、都市国家を作ったシュメル人の最後の王朝であるウル第三王朝が滅亡しています。
 アッカド王朝の二代目王ナラムシンから始まった王の神格化はその後、ウル第三王朝にも継承されました。なので、ウル第三王朝が滅亡するころには王=神という認識も広まっているでしょう。ならば神話の王を神として物語に登場させるのは当然のことであり、王を神とする考えが一般的となった時代以降に書かれたギルガメシュ叙事詩のなかの王ももちろん神と同一視されるわけです。

 ふー(;´ω`)=3
 ということで、『ギルガメシュ叙事詩は、作られた時代の影響でのウルク第一王朝があった初期王朝時代にはになかったはずの思想が生まれており、「ギルガメッシュ=王と神が同一視されてた時代・つまりギルは神として臣民の上に立った」というコメントはあくまでもギルガメシュ叙事詩での話である』という結論にいたりましたとさ。
 どんだけギルガメシュ叙事詩をきちんと調べていないかがよくわかりました。テヘ。


 でも、初期王朝時代等の文化を解明する際にギルガメシュ叙事詩は多用されています。原作も紀元前3000年期に作られたかもとされていますし。なので、必ずしも神=王という発想が無かったとは言い切れないな~と思いました。

 まだ色々と調べてて頭が混乱しているので、情報整理したらこの記事を書きなおすかもしれません。
 ・・・それにしても、本当に、アニメの波に乗ってメソポタミア文明の初期文化に興味を持ってくれる人増えないかな。
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俺と彼女の思い出


 今住んでいる町に移り住む前、大きな街に住んでいた頃、俺は彼女に会った。
 彼女は覚えていないだろう。
 数年ぶりに会った俺に、彼女ははじめましてと言った。
 あの時より大人びた笑顔を浮かべて。


 まだ10の年になったばかりの頃だった。
 俺は家族を失った。
 目の前で、俺の家族は死んでいった。
 あの後の記憶はほとんどない。
 気づいた時には、俺は街の孤児院にいた。
 毎日自分に当てられた部屋から外を眺めていた。ぼんやりと、いつまでも。
 ある日、窓の外に一輪の花が置かれている見つけた。
 それから毎日、違う種類の花が一輪だけ、置かれていた。

 どれほど経った頃だっただろうか。
 それまで見るだけだった花を手に取ってぼんやりと眺める様になった。
 暫くそうしていると、1人の小さな女の子が俺の所に来て、俺の持っている花に興味を示した。
 いるか、と聞くと、少女は目を丸くして俺を見た後、力強く頷いた。
 少女にそれを渡してやると、少女は頬を真っ赤に染めて笑った。


 ありがとう、お兄ちゃん


 少女の言葉に表情に心が震えた。
 失った、家族を思い出した。
 それから少しずつ、俺は一緒に住んでいる人たちと会話をするようになった。

 その後も、変わらず窓には花が置かれ続けていた。

 やがて、俺はみんなの中で笑うようになった。
 俺が笑った日の夜、孤児院の院長先生が俺に話した。


 失ったものを取り戻す事は出来ないけれど、新しく作りることは出来る。それは決して悪い事ではないんだよ。傷が癒えるまで、思う存分ここの家族に甘えると良い。そして何時かここを出て新しく作っていくんだ。君の家族を、愛する人を。


 院長先生の言葉に、俺は泣いた。
 大声で泣いて、すがった。
 1人は寂しい。
 1人残されて寂しかった。
 でも、俺に新しい家族が出来た。
 もう、1人ではなくなった。

 次の日の朝。俺は花が窓辺に置かれる前に窓から外を見ていた。
 気になったのだ。誰があの花を置いていたのか。
 そして、大きな籠を持った1人の女の子がやって来た。
 一輪の花を持って。
 窓辺に立っている俺を見て、彼女は驚いた表情をした。
 俺はなんだか居た堪れなくなって彼女から顔を逸らした。
 何やっているんだ、と顔を窓の方に向けると彼女が直ぐ近くに来ていた。そして俺に向かって持ってきた花を差し出している。窓は閉まったままだった。
 俺は慌てて窓を開けた。
 彼女は無言で花を差し出したままだ。
 俺も無言で彼女から花を受け取った。
 すると、彼女は身を翻して走りだした。
 俺は慌てて彼女に向かって叫んだ。


 花を、ありがとう


 彼女は足を止め、俺の方に身体を向けて、大きな声で言った。


 もう、大丈夫だね


 嬉しそうに満面の笑顔を浮かべ、彼女は去って行った。



 それから、窓の外に一輪の花が置かれることがなくなった。
 それから、俺は二輪の花を花瓶に入れて窓辺に置くようになった。

12話没案

 自室に戻るとそこにはいつの間にかいなくなっていたラオフェントがいた。
「おかえり、フィー」
 お茶を飲みながら居間でのんびりとくつろいでいる姿を見て、この人はこんな人だっただろうかとフィリネグレイアは思った。
「執務室におられなかったのでお帰りになられたのだと思っていました。どうしてこちらに?」
 ゆっくりとラオフェントが据わっているソファの向かい側のソファに行き、座る。
 彼女が座るのを待って、ラオフェントは口を開いた。
「部外者の私がいつまでもあそこにいるわけにはいかないだろう?どうしようか悩んでいたらミュレアに誘われたんだ.」
 名前が出てきた侍女の方を見ると、彼女は静かに微笑んだ。
「陛下でしたら起きて直ぐに仕事に戻られましたよ」
「聞きたいことは聞けた?」
 フィリネグレイアは首を振った。
「今はまだ」
「そう」
 フィリネグレイアの短い言葉にラオフェントも短い言葉を返してお茶を飲む。



 ここでつまって悩んだ末、没に。

兄が動いた理由

 良い天気だ、と気分良く今日も楽しく仕事をしていた。

 だというのに、昼の休憩を取った数時間後、何故か無性に腹立たしい気分になった。
 自分が腹を立てる理由は思い浮かばない。だから双子の妹であるフィリネグレイアに何かあったのだろう。
 近いうちにミュレアか妹に付いている女官が自分を呼びに来るかな、と思いつつそうならない事を祈りながら仕事をこなす。 

 自分たちは双子として生まれてきたためか、一方に起こった事がもう一方に影響を与える事がある。
 受けた時の衝撃が強ければ強いほど相手に伝わりやすい。
 特にそれが起こりやすいのは感情の場合。
 相手に伝わると言っても、知られたくないと思う感情を相手に伝わらない様に抑える事も出来る。だが、それをするのは意識を集中させなければならない。その上突然起こった場合は防ぎようがない。だからたいていは相手にダダ漏れ状態だ。 
 学生の頃はまだこの能力に関しての認識が甘かった。そして妹の能力についても。そのため妹に大変迷惑をかけてしまった。

 今では感情を制御する術を得ているのであの時の様な状態になることはない。

 自分とは違い、妹はとある事情で幼い頃から感情を制御する術を学んでいた。だからそのため感情を暴走させる事などほとんどなかった。そんな妹が己を制御出来なくなるほど感情を暴走させる事には、決まってあの人が関係していた。

 だから自分は反対したのだ。

 唯でさえ妹の影響を受けているというのに、納得のいかない事を思い出して火に油を注ぐ形になってしまった。
 これはいけないと別の事を考える。 
 外を見ると、強い風が吹いているようで木々が大きく揺れている。
 それがまるで妹の感情の影響を受けているように感じて、心が不安を生む。
 呼ばれるまで待機するなどと悠長なことは言っていられない。

 彼は事の収拾するため、動き出した。
 

私の願い


「橘美春さん、ですか?」

 ぼんやりと立っていた私は知らない男性に声をかけられた。

「はい。そうですけど」

「私は白木と申します。はじめまして」

 男性に声をかけれる理由が分からない私は眉間に皺を寄せ怪訝な顔をした。そんな私に彼は穏やかな笑みを浮かべたまま告げた。

「貴女の願いを叶えに来ました」

 

一緒にいよう。



 目が覚めて私は全てを思い出した。
 彼女が亡くなった時、私は彼女の弟から連絡を貰った。


「もしもし。奈々美さんですか?美春の弟の春樹です」

「春樹君?ええ?お久しぶりです。どうしたの?君が連絡してくるなんて」

 彼女を通して少しばかり交流があったとはいえ、彼女にすら数年もの間連絡を取っていない状態で何故彼から連絡が来たのか皆目見当がつかない。
 彼は言いにくいのか、しばしの間沈黙していたが、用件を私に告げた。

「姉の美春が、今日亡くなりました」

「え?」

 彼の言っている事が理解出来なかった。冗談だろうとも思ったが、姉を慕っている彼がそんな冗談を言うはずがない。
 私はいきなり提示された事実に愕然とした。

「明後日葬式があります。姉さんは奈々美さんに見送って欲しいと思っていたはずです」


 
 ここから私はどう行動していたのかあまり覚えていない。
 春樹君には式に出席すると返事をしたのだろう、次の日には地元に戻り、彼女の葬式に参列した。
 その頃の私はしっかりと受け答えをしていたそうだ。だが、その記憶が私には無い。
 後日知り合いにその事を話すと、そうだったのかと納得された。
 彼女が亡くなった後の私は日常生活を問題無く送っていたが、全く笑わなくなってしまったらしい。泣く事もなかった。
 それがある日突然以前の私に戻ったそうだ。
 それは何時だったかと聞くと、夏から秋に変わる頃だったと言われた。
 ああ、私は彼女に救われたのだとそれを聞いて思った。 


 あれから数年後、私は今、彼女の眠る場所で手を合わせている。
 隣にはまだ幼い私の娘が。先程まで一緒に手を合わせて祈っていたが彼女はもう飽きてしまったらしく私に寄りかかっている。
 その重さと温かさを感じつつ私は彼女に語りかける。

 前に来た後に起こった事。
 あの人に対する小さな愚痴。
 小さい娘の嬉しい成長と困ってしまった我が儘の事。

「お母さん、まだー?」

 娘がぐずり始めた。
 これ以上待たせてしまったら怒られる。私は目を開け彼女を見た。

「もうおしまい。さ、おばあちゃんのとこに行こうか」

 私は立ち上がり彼女に手を差し伸べた。
 彼女は満面の笑みを浮かべ、私の手に己の手を重ねた。
 小さな暖かい手を優しく包み込む。
 ああ、彼女は生きている。

 私は湧きあがる喜びに泣きそうになった。
 彼女は歩き始めた。私も共に歩き始める。

 彼女の様に、美しい春に生まれた私の子。


 あの時、最後に彼女が私に会いに来てくれた時に告げていた様に、彼女はまた私と一緒にいてくれる。
 今度は遠い未来に私が彼女を置いて行ってしまうけれど、それまで一緒に。

 

彼女の願い


 目が覚めると、私はベットの中で寝いていた。
 目覚めたばかりで意識がはっきりしない。
 何か大事な事があったはずなのだが、ぼんやりとしていて形を成すことが出来ない。
 私は思い出そうとする事を止めてベットから降りた。



 暑さが残る秋が過ぎ、冬が来て、やがて年が明けた。
 私は成人式に出席するため数カ月ぶりに地元に帰って来た。
 午前中は振袖を着て式に参加し、私は彼女を探したが、会うことは出来なかった。 


 式の後、私は母親に会場近くまで車で迎えに来てもらい、実家に戻った。
 そのまま母親に手伝ってもらい私服に着替える。身体が締め付けから解放され、無意識のうちに深く息を吐いた。
 振袖は母親に任せ、その他の物を適当に片づける。

「式はどうだった?友達には会えた?」

「うん、だいたいの子は式に出席してた。容姿がすっかり変わってて教えてもらわないと分からないい子もいたよ」

「そういえば、お前を会場に送った後母さん買い物に行ったんだけどそこで久しぶりに美春ちゃんのお母さんに会ったよ」

「へえ」

 私は気の無い返事をした。

「少し話をしたんだけど、最近になってようやく美春ちゃんの事から立ち直れたって。奈々美が式の時に来てくれて嬉しかったっておっしゃっていたよ」

 この母親の言葉に私は身体が強張った。

「美春ちゃんが亡くなってもうすぐ一年が経つのね」

 母親が言った事。
 それが頭の中でわんわんと反響する。
 美春が亡くなって、もうすぐ一年。

「奈々美?奈々美。どうしたの?」

 動かなくなった私が心配になったのだろう。母親が不安そうな声で私を呼ぶ。

「ううん。・・・もう、いないと思ったら、寂しくなって」

 まだ混乱した状態のままで何とか答える。
 本当は母親に問い質したい。
 何時、彼女は亡くなったのか。
 どうして、彼女はいなくなってしまったのか。
 何故、その事を私は覚えていない?
 分からない事だらけなのに、何故かその事を知っている様な気がする。いや、知っているのだろう。でも、その事を認めたくないと自分は拒絶している。

「部屋に戻るね」

 震える手を駆使して片づけを終わらせ、私はまだ母親が残しておいてくれている自室に戻る。
 自室に入りベットに座ると、私は母親の言った事と自分が覚えている事実の整理をしようとした。
 頭が痛い。
 私はベットに身を横たえ、目を閉じた。




 目を開けると、彼女が立っていた。
 ああ、やはり彼女は生きているではないか。
 私は安堵した。

「奈々ちゃん、ずっと心配だったけど、もう大丈夫だよね」

 彼女の言葉に私は焦りを覚えた。
 言葉を紡ごうとしたが、音が出ない。口は動くのに、言葉が出ない。
 何を言っているの、美春。私は心の中で叫んだ。
 彼女は悲しげに笑った。

「もう奈々ちゃんは大丈夫」

 私は頭を振った。身体全身で彼女の言葉を否定する。

「あの人も、奈々ちゃんと同じ反応してた。似た者同士なんだね。きっと私よりも仲良く出来るよ」

 彼女が何を言っているのか分からない。分りたくない。

「きっとあの人、私の誕生日に私に会いに来る。だから、奈々ちゃん。あの人に会って。それで、私の代わりにあの人を支えてあげて」

 涙が溢れて来た。
 悲しみと寂しさで胸が痛い。痛くて痛くて涙が止まらない。

 嫌だ。
 いなくなるのは嫌だ。
 行かないで。
 あの時、ようやくあの頃の事を謝ることが出来たのに。
 これからも一緒にいられると思ったのに。

 私は涙をボロボロとこぼしながら彼女を見つめ、音にならない声を、思いを彼女に向ける。だが、彼女は目を閉じて首を振り、私の思いを否定した。

「奈々ちゃんが私を好きでいてくれて嬉しい。とても、嬉しい。だけどね、私はもう行かなくちゃ」

 言葉を話せても、彼女に私の思いが伝わっても、私の望む結果には決してならない事を悟った。
 どうにもならない思いが生まれてくることに、私は顔を覆ってしまった。自分の心を傷つける感情から己を守るために。
 そんな私を包み込んで守るように、彼女が私を抱きしめる。
 こんなに温かいのに。
 彼女はもう私と同じ世界で生きていないのだ。

「まだずっと先の事だけれど。ある人が教えてくれたの。私、また奈々ちゃんといられるようになるよ。違う私になって、2人と一緒にいられるから、それまで待っていて」

 また会えるよ。
 彼女はそう言い残していってしまった。

私の告白 彼女の告白

 全てを告白して、私は本当にすっきりとした気分になれた。
 ずっとつっかえていたものが取れた。
 だが、私が出した想いを受け取った彼女はどう思ったのか。それが気になった。
 彼女がどう返してくるのか、少し恐れながら私は彼女が口を開くのを待つ。
 そして彼女が話し始めた。

「ずっと気になっていたの」

 泣くのを我慢している顔で彼女は言う。

「どうして、奈々ちゃんが会ってくれないのか」

 彼女の言葉に私は胸が痛んだ。
 自分が臆病だったせいで彼女を傷つけただろうとは思っていても、それは曖昧な予想
だった。だが、彼女の言葉でそれがはっきりと形を成して私の胸に突き刺さる。

「ごめんね。私が自分の気持ちを上手く制御出来なかったせいで、美春に酷い事して、ごめんなさい」

 私が謝ると彼女は俯いていて首を横に振った。

「私が奈々ちゃんの立場だったら、同じ事をしていたよ」

 彼女は顔を上げ、私を見る。
 その目は涙でキラキラと光っている。

「私たちはいつも一緒にいたから、本当の家族よりも沢山の時間を共有してきたんだから。どうしても似てきてしまうでしょう?」
 彼女の言葉にそれまで乾いていた目へ急に涙が集まった。
 塞き止めていたモノが彼女の言葉に破壊され、次々と涙が流れていく。悲しいとか、辛いとかではなく、嬉しさとか懐かしさとかそんな心が暖かくなる想いが涙と共に溢れて来る。

「だけど、気づいてあげられなくて、ごめんなさい」

 彼女が暗い表情になって私は慌てた。

「私が気づかれないように美春から距離を置いたんだから、仕方ないよ」

 貴女は悪くないと私は主張したが、彼女は首を振ってその慰めを拒否する。

「私は奈々ちゃんが大好きだった。なのに、拒絶されるのを恐れて苦しんでいる奈々ちゃんに手を差し伸べようともしなかった。・・・だから」

 彼女は小さく言った。


 だから、バチが当たったんだ。


 彼女の言葉に私は首を傾げ、どういうことか問おうとした。だが、それは彼女によって遮られた。

「今も、あの人のこと、好き?」

 問われて、己の心と向き合ってみる。

「多分、好き。でもそれは少し憧れに似ているような気がする。」

 私の答えに、彼女はそうとだけ返した。
 

お互いの空白を埋めよう


 久しぶりの彼女との会話はとても楽しいものだった。
 会っていなかった間の事を私たちは夢中で話した。 

 あんな事があった、こんな事もあった。
 あの時こう思った、これはこうなった。 

 たくさんの話は尽きる事無く、私たちは話をした。
 最初は近くにあった喫茶店に入り話をしていたのだが3時間経ったところで流石にこれ以上いられないと場所を移した。
 向かったのは私が住んでいるアパート。
 高校を卒業したあと、私は都会の大学に進学し1人暮らしを始めた。
 彼女はどこに住んでいるのかと聞いたら、私の住んでいるアパートの最寄り駅から4駅程いった所が最寄駅のマンションに住んでいると答えた。彼女は専門学校に進み、服飾の勉強をしているらしい。

「はあ~。こんなに話し続けたのは初めて」

「長い間会っていないとこんなに話す事があるんだね。なんだかすっきりしちゃった」

 彼女の言葉に私はうんうんと頷く。
 私は誰かと話していても物足りなかったのが解消されたような感覚を覚えていた。
 でも、1つだけ私の中で彼女に伝えたい事が残っている。伝えたいと思う反面、言い辛い事。
 彼への恋心とそのために彼女を避けていった事。
 この事を言おうか言わないでおこうか私は悩んみ、ずるずると決断を先延ばして未だに踏ん切りがつかない。
 そんな私の考えは彼女の次の発言で吹っ飛んだ。

「私ね、ずっと奈々ちゃんに聞きたい事があったの」

 今までと明らかに彼女の雰囲気が変わった。
 その事に私は身を固くした。
 予感が、した。

「高校の時、私の事避けてた?」

 聞かれたくなかった事。
 触れられたくなかった事。
 でも、話したかった事。
 
 彼女がきっかけを作ってくれた。 
 手が、震える。
 私は口を開いた。

「うん。あの頃の私には美春に会うのが辛かったから」

 遂に言ってしまった。
 胸が痛い。
 この言葉が彼女を傷つけると分かっているから。
 案の定、彼女は泣きそうな顔をしている。

「私、奈々ちゃんを傷つけてた?」

 彼女の問いに、私は頭を横に振った。

「ううん。美春が悪いわけじゃないの。私が自分の感情を優先しただけ」

 私は泣きだして話せなくならない様に、感情を爆発させないように、ゆっくりと話す。
 あの頃の彼への想いを。
 

彼女との再会



 降り注ぐ強い日差しの中、人でごった返している道を歩く。
 自然物なんてほとんど見当たらない、人が無機物で作り上げた物で溢れかえる街の中を私は歩く。
 

「あっつい」
 

 身体の周りを不快な物で覆われている感覚がする。
 眉間にしわを寄せて険しい顔を作って歩いている私を呼びとめる声が聞こえた。
 

「奈々ちゃん?」
 

 その声はまるで冷やかな風と共に私の所へ届き、まとわりついていたモノを払ってしまったかの様に私から他の情報を奪っていった。
 

「やっぱり奈々ちゃんだ!」
 

「美春」

 小学生の頃に出会い、中学卒業まではよく2人で行動していた。
 だがそれぞれ違う高校へ進学し段々と疎遠になっていった。
 

「久しぶり、元気にしてた?」
 

 驚きから立ち直った私は、きちんと笑えているだろうか。
 彼女を見ていると、始めての恋心を思い出してしまう。
 彼女には幼馴染が1人いた。
 その人は私たちの5つ年上の男性で、彼女をとても可愛がっていた。
 だからいつも一緒にいた私との交流も少なからずあった。
 親族以外で一番近かったせいだろうか。
 とても魅力的な人だったせいだろうか。
 私は彼に惹かれていった。
 だけど、彼にとっての唯一の女性は彼女だけだった。
 明るくて可愛らしくて暖かな日差しの様な彼女。
 まだあの子には秘密だよ、と嬉しそうに照れくさそうに彼が私に打ち明けた時は頭が真っ白になった。
 それが高校に入学してすぐの頃。
 以降、私は自分を守るために彼女から距離を取り、そして会わなくなった。


 自分は随分と勿体ない事をしたと思う。
 彼女以上、いや、彼女と同等に付き合える友人には出会えなかった。
 あれほど波長が合う人など2人といないのだと言うことを悟ったのは彼女からの誘いが来なくなってだいぶ経った頃。


「ぼちぼち、かな・・・奈々ちゃんこの後何か用事あるかな。予定が空いているようだったら、どこかでお話しない?折角久しぶりに会えたんだし」

 彼女からの誘いに私は身を固くしてしまった。
 正直、彼女から逃げたいという気持ちが少しある。
 彼女を見ているだけであの頃の辛い気持ちが蘇って来る。まだ私にはあの頃を振り返って笑えるだけの余裕がない。
 だけど、これを逃したら二度と彼女と言葉を交わす機会はないと思った。
 そう思った瞬間に、うん、と了承の言葉を私は口にしていた。

 

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