零れ話
兄が動いた理由
良い天気だ、と気分良く今日も楽しく仕事をしていた。
だというのに、昼の休憩を取った数時間後、何故か無性に腹立たしい気分になった。
自分が腹を立てる理由は思い浮かばない。だから双子の妹であるフィリネグレイアに何かあったのだろう。
近いうちにミュレアか妹に付いている女官が自分を呼びに来るかな、と思いつつそうならない事を祈りながら仕事をこなす。
自分たちは双子として生まれてきたためか、一方に起こった事がもう一方に影響を与える事がある。
受けた時の衝撃が強ければ強いほど相手に伝わりやすい。
特にそれが起こりやすいのは感情の場合。
相手に伝わると言っても、知られたくないと思う感情を相手に伝わらない様に抑える事も出来る。だが、それをするのは意識を集中させなければならない。その上突然起こった場合は防ぎようがない。だからたいていは相手にダダ漏れ状態だ。
学生の頃はまだこの能力に関しての認識が甘かった。そして妹の能力についても。そのため妹に大変迷惑をかけてしまった。
今では感情を制御する術を得ているのであの時の様な状態になることはない。
自分とは違い、妹はとある事情で幼い頃から感情を制御する術を学んでいた。だからそのため感情を暴走させる事などほとんどなかった。そんな妹が己を制御出来なくなるほど感情を暴走させる事には、決まってあの人が関係していた。
だから自分は反対したのだ。
唯でさえ妹の影響を受けているというのに、納得のいかない事を思い出して火に油を注ぐ形になってしまった。
これはいけないと別の事を考える。
外を見ると、強い風が吹いているようで木々が大きく揺れている。
それがまるで妹の感情の影響を受けているように感じて、心が不安を生む。
呼ばれるまで待機するなどと悠長なことは言っていられない。
彼は事の収拾するため、動き出した。