零れ話
彼女との再会
降り注ぐ強い日差しの中、人でごった返している道を歩く。
自然物なんてほとんど見当たらない、人が無機物で作り上げた物で溢れかえる街の中を私は歩く。
「あっつい」
身体の周りを不快な物で覆われている感覚がする。
眉間にしわを寄せて険しい顔を作って歩いている私を呼びとめる声が聞こえた。
「奈々ちゃん?」
その声はまるで冷やかな風と共に私の所へ届き、まとわりついていたモノを払ってしまったかの様に私から他の情報を奪っていった。
「やっぱり奈々ちゃんだ!」
「美春」
小学生の頃に出会い、中学卒業まではよく2人で行動していた。
だがそれぞれ違う高校へ進学し段々と疎遠になっていった。
「久しぶり、元気にしてた?」
驚きから立ち直った私は、きちんと笑えているだろうか。
彼女を見ていると、始めての恋心を思い出してしまう。
彼女には幼馴染が1人いた。
その人は私たちの5つ年上の男性で、彼女をとても可愛がっていた。
だからいつも一緒にいた私との交流も少なからずあった。
親族以外で一番近かったせいだろうか。
とても魅力的な人だったせいだろうか。
私は彼に惹かれていった。
だけど、彼にとっての唯一の女性は彼女だけだった。
明るくて可愛らしくて暖かな日差しの様な彼女。
まだあの子には秘密だよ、と嬉しそうに照れくさそうに彼が私に打ち明けた時は頭が真っ白になった。
それが高校に入学してすぐの頃。
以降、私は自分を守るために彼女から距離を取り、そして会わなくなった。
自分は随分と勿体ない事をしたと思う。
彼女以上、いや、彼女と同等に付き合える友人には出会えなかった。
あれほど波長が合う人など2人といないのだと言うことを悟ったのは彼女からの誘いが来なくなってだいぶ経った頃。
「ぼちぼち、かな・・・奈々ちゃんこの後何か用事あるかな。予定が空いているようだったら、どこかでお話しない?折角久しぶりに会えたんだし」
彼女からの誘いに私は身を固くしてしまった。
正直、彼女から逃げたいという気持ちが少しある。
彼女を見ているだけであの頃の辛い気持ちが蘇って来る。まだ私にはあの頃を振り返って笑えるだけの余裕がない。
だけど、これを逃したら二度と彼女と言葉を交わす機会はないと思った。
そう思った瞬間に、うん、と了承の言葉を私は口にしていた。