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息子は無邪気に元凶を告げた…。

「今日の仕事は終わりだとイリアに執務室から追い出された」

 そう言いながら自分のもとにまでやってきた息子を抱き上げた。高い位置に持ち上げられた息子は、嬉しいようで笑い声を上げながらはしゃいでいた。そんな微笑ましい風景を笑顔で見つめながら、彼女は彼から仕事を取り上げた元凶に余計な事をと毒づいた。
 だが、無邪気に喜ぶ息子と触れ合う夫を見るのは非常に心が温まった。
 彼らを見つめていた彼女へとふいに夫が見つめ返してきた。
 何だろうと内心首をかしげると、夫が嫌な笑みを浮かべる。彼がそんな風な笑い方をするとき、確実にろくな事が起きる。
 関わりたくなくて不自然に目線をそらすが、やはりそれは無理だった。

「どうして父様と母様が会った場所を聞きたんだ?」

「えっと、トリウェルに僕が生まれる前のお父様とお母様のお話を聞いたんです。でも、お父様たちが初めて会った時のことはご本人からお聞きくださいと言われたんです」

 原因は奴か…。
 密かに後でしめてやろうと思っても仕方ないだろう。

 

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息子の素朴な疑問 母にとっては地雷のような話題


「お母様とお父様はどこで出会ったのですか?」

 可愛らしく首をかしげながら問いかけてくる息子を可愛いなぁと思いつつ、その内容に頭が真っ白になる。固まった母を見上げて答えを待つ我が子に何と話したら良いのだろうか。
 その当時のことをあまり思い出したくない、というか話したくないため、どうにか息子の興味を他に移せないか対策を練ることを熱心にしていたため、彼女は後ろから来る人物の存在に気付かなかった。

「母様と父様が初めて会ったのは温室だよ」

「あ、お父様!お仕事終わったのですか?

 突然現れた父親へ息子が飛んでいく。
 ああ余計な人がきてしまったと彼女はもうこの話題を無かったことに出来ないと覚悟した。

乗り込んでみたら

 今の状況はどういい表わしたらいいのだろうか。

 現在、自分たちが居るのは国王の執務室。ここにいるのは暗い中黙々と仕事をこなす国王と、それを補佐するイリア、それと乗り込んできたミュレアと引きずられるようにしてやってきたトリウェル。

「陛下、お聞きしたことがあります」

 そう発言したミュレアを一瞬見ただけで、国王は何も言わずに書類に目を通す作業を続けた。

「いつまで本当のことを隠されるのですか」

 彼女のその言葉に国王の動きが止まり、書類から視線を外した。

「何を言いたい」

「正直にお伝えした方がお二人のためだと申し上げているのです」

 溜息をついて椅子の背もたれに身体を預ける。その態度が、まるでそんなことを言いに来たのかと呆れているようで、ミュレアは癪に障った。

「言いたいのはそれだけか」

「はい」

「そうか、彼女は追い詰められているのか」

「私にはそう見えましたので」

 それを聞いただけで、国王は再び作業を始めた。
 最初に逆戻りしたようで、ミュレアは国王の説得が無理な事を悟った。
 

被害者は青年 諦めろ!遭遇したのが悪かった…


「良いところで会いましたね。トリウェル様」

 笑顔で脅迫されそうだ、と心の中で呟いたトリウェルは引きつる顔を何とか直そうと試みるが、なかなか上手くいかなかった。

「どうしたんですか、ミュレア」

「陛下は今執務部屋にいらっしゃいますでしょうか」

「え?ええ、いらっしゃると思いますが」

 思っていたのとは違う人物の居場所を聞かれ、トリウェルは呆気にとられた。何だ彼を探していたのではないのか。

「そうですか。会議中ではありませんよね」

「ああ、昼間休みを取った分を取り戻すと書類に」

 トリウェルが全て良い終わる前に、ミュレアは歩きだす。人の話を遮るなどという失礼な事をしない彼女のこの行動に、トリウェルは驚いて思わず彼女の腕を取り、その歩みを止めた。

「ちょ、ちょっと。ミュレア!どうしたんですか」

 だが、その問いに答える事は無く、ミュレアは低い声で警告する。

「離して下さい。たとえ貴方でも邪魔だてすれば容赦しませんよ」

・・・

 今日はここまで!あっぶな。UPするって言ってたの忘れてた。
 また後日続きを書きます。
 

堪忍袋の緒が切れました!ブチッ!!

 呆然と目の前を見つめ続けるフィリネグレイアを見て、ミュレアはついに己の中の何かが切れたのが分った。
 彼女は黙ってフィリネグレイアから離れ、部屋を出る為廊下に続く扉へと進んでいく。その際、一緒に部屋に入ってきていたサヴィアローシャに目線を向ける。
 フィリネグレイアを見ていたサヴィアローシャは視線を感じ、彼女はミュレアの方を見る。ミュレアのその表情からフィリネグレイアの事を頼まれたのを覚る。了解したと1つ肯くと、ミュレアはうっすらと笑ってから部屋を出て行った。

 部屋から出たミュレアは黙々とわき目も振らず目的地へと足を進める。その勢いといったら誰も声をかけられないほどであり、実際彼女に声をかけようとしたトリウェルは一度固まった後にその表情を引きつらせた。
 彼は彼女に声をかけない方が良いと即座に判断した。だが時既に遅く、怒り心頭のミュレアに見つかった。
 トリウェルを見つけたミュレアはそれはそれは嬉しそうに笑顔を浮かべた後、そのままの表情で彼へ向かっていく。


 以上!とりあえずここで今日は終わり!明日また夜にでも続きをUPしたいと思います。

 ところで、何故フィリネグレイアが呆然としていたのかは第21話で分ります。
 こっちも頑張って書きあげるぞ!

王妃の疑問 聞いてみたら夫が不機嫌になりました

 とある温かい日差しが降り注ぐ良く晴れた日のことだった。

「ずっと気になっていたのですが、陛下はいつになったら他の妻を娶られるのでしょうか」

 行き成りそう問われた男性は、妻の発言に飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。そんな醜態をさらすことはなかったが、気管に入って咳を繰り返す。男性が苦しそうに咳をするのを見て、女性は慌てて男性の背をさすった。

「大丈夫ですか?」

「ああ、平気だ」

 少し間をおいて落ち着いた男性は、爆弾発言を落とした女性に問いかける。

「行き成り何故そのような事を言うんだ」

 男性の問いに、女性は首をかしげながら、自分の疑問を打ち明ける。

「上王陛下は第3妃までいらっしゃたので、陛下も他の女性を妻にするのかと。実際そのようなお話を受けているのではありませんか?」

 女性の質問に、男性は今ここにいない己の親に向かってあのクソ親父!と罵る。

「お前は俺が他の女性と結婚しても何とも思わないのか」

 男性の言葉と自分を見つめる目に、女性はひるんでしまう。そして不機嫌そうに少し眉間にしわを寄せて、呟いた。

「私は十分にお世継ぎを生めません。それは陛下もご存じの筈です。私が貴方の妻でいられるのは、周りの人と陛下の温情のおかげです」

 女性の言葉を聞いた男性はため息をつき、それを見た女性は泣きたい気持ちでいっぱいになった。

「俺はそういうことを聞きたいんじゃない。お前は俺が他に妻をもって嫌じゃないのかと聞いている。お前の本心が聞きたい」

 男性の真摯な言葉に女性は息を飲んだ。ここで自分の心を偽ったら、きっと目の前の愛する人を傷つけてしまうと思った。

「もし、陛下が新しく妻を迎えられたら、すごく寂しくて辛くなると思います」

 女性の言葉に、男性は安どした。どうやら他の女性を妻としても何とも思われないほど愛されていないというわけではないようだ。ということは最初の答えが彼女の中で不安となっているのだろう。

「お前が俺の妻なのは、俺がそう望み、他の者もそうあるべきだと思っているからだ。それと、俺はお前以外妻とする気はない。今は他に妻をめとる必要がないし、俺はお前以外の女に対して妻のように接することはできない。だから、だ」

 男性の言葉を聞いた女性は目に涙を浮かべて、男性の胸にその身を委ねた。女性を受け止めた男性は彼女の頭を優しくなでる。何故そのような不安が彼女を襲ったのかという詳細を男性は知らないが、大方予想はつく。きっと心ない言葉が彼女の心をえぐったのだろう。
 傷ついた女性を癒すため、自分の出来ることを男性はする。

「俺を支えてくれる妻はお前だけだ」

 その言葉を聞いた女性は男性の腕の中で小さく「はい」と返事をした。


・・・

 そんな2人の世界を展開している部屋の中に、実は彼ら以外に側近2人と侍女1人が居た。
 女性の爆弾発言に硬直していた人たちは逃げ出すタイミングを見事に逃がしてしまい、それなら傍観してやると2人のやり取りを離れたところで見ていたわけなのだが。

「あー、陛下すごいデレてますね。いつもの威厳がないですよ」

「まさかこんな日が来るとは思わなかったけど、良いことなんだか」

「良いじゃないですか。私としてはイーシャ様が素直に甘えられる姿を拝見出来て大変嬉しいですけど」

「あー・・・」

 他の2人が侍女を見ながら何と言えない表情と声音で同じ言葉を発した。

「なんですか、その反応」

「いや、気にしないで」

「それにしてもイーシャ様の発言には肝を冷やしましたね」

「本当に」

「でもま、良いんじゃないですか?陛下も嬉しそうですし」

 そんな会話をしながら、3人は自分たちの主を眺めていた。

 

王と王妃のある日の出来事


「陛下、陛下?どこにいらっしゃいますか」

 一人の女性が、広い庭園のなか誰かを探していた。その声を聞いた一人の男性がその女性に声をかける。

「イーシャ、俺はここだ」

 女性から見える位置に移動しすると、男性を見つけた女性は嬉しそうに男性のもとへと向かう。

「こちらにいらしたのですね。探しました」

 急いで男性のもとへ行きたい気持ちを抑えて女性は歩く。気を抜いたら走ってしまいそうになるが、それをすれば男性に怒られてしまうだろう。
 男性も女性が自分のもとへ辿り着くのを見守りながら待つ。以前は女性がこちらに来るのを待つよりは、自分が向かった方が早いと自分が彼女の方へ歩いて行っていたのだが、そうすると彼女は少し不機嫌になる。何故だろうと小首をかしげていた。先日その理由を聞いてみたところ、なんと男性が立っている所まで自分の足で辿り着きたいという何とも不思議な想いがあったそうな。
 そのような事を他人が言ったなら馬鹿かと袖にするところだが、愛する人が言うと男性には何故か愛おしく感じていた。
 可愛らしい女性が自分のところに到着したところで、己の腕で彼女を包み込むようにその身を引き寄せた。

「どうした?今日の仕事は午前中だけだったはずだが」

 自分を包む男性に女性は身を預け、男性の問いに答える。男性の腕の中にいる女性はとても幸せそうにほほ笑んだ。

「はい。お兄さまからそのように窺っております」

 時折、どこかふらっといなくなってしまう男性を連れ戻すのはもっぱら女性の役割となっている。彼女が男性を探しているのは大抵そういう状況であるが為、今回もそうなのかと男性は思ったのだが、どうやら違う用件のようだ。

「実は陛下にお伝えしたいことがあります」

 立ったまま話し出そうとした女性に、男性は待ったをかけた。 

「その前に東屋に行こう。昨日もまた熱を出していただろう。ずっと立っていては疲れてまた風邪を引いてしまう」

 女性をエスコートしながら移動し始めた男性に、女性は少し不満そうにする。

「陛下、私は昔と違ってこれぐらいで風邪など引きませんよ」

「だが、ここ最近体調が優れないのだろう?トリエとサヴィエナが心配していたぞ」

 女性付きの侍女たちの名前を出され、女性は表情を陰らせた。

「2人にはいつも迷惑をかけてしまって申し訳なく思っています」

「あの2人は迷惑なんて思っていないだろう」

 2人で東屋に入り、中に設置してある椅子に座る。昼間であるが既に冬に近付いているため日陰に入ると少し肌寒い。男性はショールを羽織っている女性に自分の上着をかけた。

「私はこれをかけていますから大丈夫です。陛下がお風邪を召してしまいます」

「俺はイーシャと違って頑丈だから大丈夫だ」

 女性は少し不満だったが、男性の匂いのする温かい上着に心が温かくなるのを感じた。

「それで、お前の伝えたい事とは何だ」

 当初の目的を思い出した女性は、見つめていた上着から目線を外し、男性を見詰める。

「実は今日医師に体調を見ていただいたのですが、実は…」

 その先を聞いた男性は目を見開いた後、温かい笑みをその顔に浮かべた。滅多に微笑まない男性が嬉しそうに笑うそのことが、女性はすごく嬉しかった。
 

・・・



「それなら、やはりこんなところにいて身体を冷やしては大変だ。部屋に戻るぞ」

 そういって男性は女性を抱き上げた。
 男性の行き成りな行動に女性は驚き、非難の声を上げる。

「え!?陛下!ちょっ、お、降ろして下さい!!」

「ずっと気になっていたのだが、いつまで俺の事を陛下と呼ぶんだ。もう結婚して半年以上経つのだからいい加減名前で呼べ」

「そ、それは」

「お前が俺をそのように読んでいたら、俺は自分の子にも“陛下”と呼ばれそうだ。さすがにそれは勘弁してほしい」

 

やはり兄妹


「貴女はお兄様相手になると、面白いぐらい感情がつかみにくくなるのね」

 これが、先程までいた王太子が去った後の王女の第一声である。
 彼女と王女初めて会ってもう3年が経つ。段々と分ってきたことだが、王族特有の人を引き付ける資質を持っている王女は、それを十分に活用して立ちまわっている。その罠にかかった人たちをどれほどまじかで見てきたことか。
 まあ、彼女もその中の一人であるわけだが、他の人たちと違って一応この王女の親友という地位を手に入れた。彼女は自分のどこが良いのか思い当たる節が無いく、時折疑問に感じていた。

 だが、しかし。

 最近は何となくその理由の一つが分りつつある。
 王女は楽しんでいるのだ、兄王子に対する彼女の反応を。

「そんなことはありませんよ」

 彼女は王女の言葉ににっこりと、普段ならしないような満面の笑みを意図的に顔に浮かべる。
 それにより、彼女が今非常に不機嫌だということが伝わったのだろう。王女は苦笑するだけでそれ以上何もいわなかった。




 

呼び声


「フィリア」

 そうわたくしを呼ぶのは、一人しかいない。
 振り返ると、やはりあの人が立っていた。

「こんなところで何をしているんだ」

「花を、見ていました」

 以前出会った庭師が大切に植えてた花。
 傲慢に、自然の理を変えてまで育てた、花。
 自惚れているのかもしれないが、なぜか自分とこの花を重ねてしまっている。

「そんなところに長時間いたらまた倒れるだろう。こちらに来い」

 結婚する前と今では、夫の態度が変わった。以前はたまに荒くはなるが、大抵丁寧な言葉遣いだった。その使い分けが以前は気持ち悪く感じていた。
 今は、あの頃の方が良かったと思っている。まだ距離感がつかめていた。だが、今はどうだろう。分らない。
 分らないことが、怖い。
 ぼんやりとそんなことを考えながら、自分に差し出された手のひらに自分の手を乗せる。

 いつまで自分はこの手を堂々ととることが出来るのだろう。
 理を歪ませ納まった、王妃という地位に…いつまで座っていられるのだろう。

嵐が去った後


 国王の不可解な訪問の後、フィリネグレイアは長い間彼が出て行った扉の前で硬直していた。
 
「本当に、あの人は何がしたいのかしら」

 触られた頬に自分の手を当て、先程の行為を思い出すようにゆっくりとなでた。無意識のうちにしたその動作に、フィリネグレイアは何やら胸にもやもやしたものが生まれたのを感じた。
 不愉快なそれを封じ込めて、フィリネグレイアは今度こそ寝るため寝台に身を横たえた。


 

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