零れ話
王妃の疑問 聞いてみたら夫が不機嫌になりました
とある温かい日差しが降り注ぐ良く晴れた日のことだった。
「ずっと気になっていたのですが、陛下はいつになったら他の妻を娶られるのでしょうか」
行き成りそう問われた男性は、妻の発言に飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。そんな醜態をさらすことはなかったが、気管に入って咳を繰り返す。男性が苦しそうに咳をするのを見て、女性は慌てて男性の背をさすった。
「大丈夫ですか?」
「ああ、平気だ」
少し間をおいて落ち着いた男性は、爆弾発言を落とした女性に問いかける。
「行き成り何故そのような事を言うんだ」
男性の問いに、女性は首をかしげながら、自分の疑問を打ち明ける。
「上王陛下は第3妃までいらっしゃたので、陛下も他の女性を妻にするのかと。実際そのようなお話を受けているのではありませんか?」
女性の質問に、男性は今ここにいない己の親に向かってあのクソ親父!と罵る。
「お前は俺が他の女性と結婚しても何とも思わないのか」
男性の言葉と自分を見つめる目に、女性はひるんでしまう。そして不機嫌そうに少し眉間にしわを寄せて、呟いた。
「私は十分にお世継ぎを生めません。それは陛下もご存じの筈です。私が貴方の妻でいられるのは、周りの人と陛下の温情のおかげです」
女性の言葉を聞いた男性はため息をつき、それを見た女性は泣きたい気持ちでいっぱいになった。
「俺はそういうことを聞きたいんじゃない。お前は俺が他に妻をもって嫌じゃないのかと聞いている。お前の本心が聞きたい」
男性の真摯な言葉に女性は息を飲んだ。ここで自分の心を偽ったら、きっと目の前の愛する人を傷つけてしまうと思った。
「もし、陛下が新しく妻を迎えられたら、すごく寂しくて辛くなると思います」
女性の言葉に、男性は安どした。どうやら他の女性を妻としても何とも思われないほど愛されていないというわけではないようだ。ということは最初の答えが彼女の中で不安となっているのだろう。
「お前が俺の妻なのは、俺がそう望み、他の者もそうあるべきだと思っているからだ。それと、俺はお前以外妻とする気はない。今は他に妻をめとる必要がないし、俺はお前以外の女に対して妻のように接することはできない。だから、だ」
男性の言葉を聞いた女性は目に涙を浮かべて、男性の胸にその身を委ねた。女性を受け止めた男性は彼女の頭を優しくなでる。何故そのような不安が彼女を襲ったのかという詳細を男性は知らないが、大方予想はつく。きっと心ない言葉が彼女の心をえぐったのだろう。
傷ついた女性を癒すため、自分の出来ることを男性はする。
「俺を支えてくれる妻はお前だけだ」
その言葉を聞いた女性は男性の腕の中で小さく「はい」と返事をした。
・・・
そんな2人の世界を展開している部屋の中に、実は彼ら以外に側近2人と侍女1人が居た。
女性の爆弾発言に硬直していた人たちは逃げ出すタイミングを見事に逃がしてしまい、それなら傍観してやると2人のやり取りを離れたところで見ていたわけなのだが。
「あー、陛下すごいデレてますね。いつもの威厳がないですよ」
「まさかこんな日が来るとは思わなかったけど、良いことなんだか」
「良いじゃないですか。私としてはイーシャ様が素直に甘えられる姿を拝見出来て大変嬉しいですけど」
「あー・・・」
他の2人が侍女を見ながら何と言えない表情と声音で同じ言葉を発した。
「なんですか、その反応」
「いや、気にしないで」
「それにしてもイーシャ様の発言には肝を冷やしましたね」
「本当に」
「でもま、良いんじゃないですか?陛下も嬉しそうですし」
そんな会話をしながら、3人は自分たちの主を眺めていた。