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王と王妃のある日の出来事


「陛下、陛下?どこにいらっしゃいますか」

 一人の女性が、広い庭園のなか誰かを探していた。その声を聞いた一人の男性がその女性に声をかける。

「イーシャ、俺はここだ」

 女性から見える位置に移動しすると、男性を見つけた女性は嬉しそうに男性のもとへと向かう。

「こちらにいらしたのですね。探しました」

 急いで男性のもとへ行きたい気持ちを抑えて女性は歩く。気を抜いたら走ってしまいそうになるが、それをすれば男性に怒られてしまうだろう。
 男性も女性が自分のもとへ辿り着くのを見守りながら待つ。以前は女性がこちらに来るのを待つよりは、自分が向かった方が早いと自分が彼女の方へ歩いて行っていたのだが、そうすると彼女は少し不機嫌になる。何故だろうと小首をかしげていた。先日その理由を聞いてみたところ、なんと男性が立っている所まで自分の足で辿り着きたいという何とも不思議な想いがあったそうな。
 そのような事を他人が言ったなら馬鹿かと袖にするところだが、愛する人が言うと男性には何故か愛おしく感じていた。
 可愛らしい女性が自分のところに到着したところで、己の腕で彼女を包み込むようにその身を引き寄せた。

「どうした?今日の仕事は午前中だけだったはずだが」

 自分を包む男性に女性は身を預け、男性の問いに答える。男性の腕の中にいる女性はとても幸せそうにほほ笑んだ。

「はい。お兄さまからそのように窺っております」

 時折、どこかふらっといなくなってしまう男性を連れ戻すのはもっぱら女性の役割となっている。彼女が男性を探しているのは大抵そういう状況であるが為、今回もそうなのかと男性は思ったのだが、どうやら違う用件のようだ。

「実は陛下にお伝えしたいことがあります」

 立ったまま話し出そうとした女性に、男性は待ったをかけた。 

「その前に東屋に行こう。昨日もまた熱を出していただろう。ずっと立っていては疲れてまた風邪を引いてしまう」

 女性をエスコートしながら移動し始めた男性に、女性は少し不満そうにする。

「陛下、私は昔と違ってこれぐらいで風邪など引きませんよ」

「だが、ここ最近体調が優れないのだろう?トリエとサヴィエナが心配していたぞ」

 女性付きの侍女たちの名前を出され、女性は表情を陰らせた。

「2人にはいつも迷惑をかけてしまって申し訳なく思っています」

「あの2人は迷惑なんて思っていないだろう」

 2人で東屋に入り、中に設置してある椅子に座る。昼間であるが既に冬に近付いているため日陰に入ると少し肌寒い。男性はショールを羽織っている女性に自分の上着をかけた。

「私はこれをかけていますから大丈夫です。陛下がお風邪を召してしまいます」

「俺はイーシャと違って頑丈だから大丈夫だ」

 女性は少し不満だったが、男性の匂いのする温かい上着に心が温かくなるのを感じた。

「それで、お前の伝えたい事とは何だ」

 当初の目的を思い出した女性は、見つめていた上着から目線を外し、男性を見詰める。

「実は今日医師に体調を見ていただいたのですが、実は…」

 その先を聞いた男性は目を見開いた後、温かい笑みをその顔に浮かべた。滅多に微笑まない男性が嬉しそうに笑うそのことが、女性はすごく嬉しかった。
 

・・・



「それなら、やはりこんなところにいて身体を冷やしては大変だ。部屋に戻るぞ」

 そういって男性は女性を抱き上げた。
 男性の行き成りな行動に女性は驚き、非難の声を上げる。

「え!?陛下!ちょっ、お、降ろして下さい!!」

「ずっと気になっていたのだが、いつまで俺の事を陛下と呼ぶんだ。もう結婚して半年以上経つのだからいい加減名前で呼べ」

「そ、それは」

「お前が俺をそのように読んでいたら、俺は自分の子にも“陛下”と呼ばれそうだ。さすがにそれは勘弁してほしい」

 

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