零れ話
ふぁんたじー風にしようと思って挫折。
私は感情が大きく揺れると不思議な事が起こる。幼い頃自分の不思議な力に怯え、泣いていた時にある女性から綺麗な勾玉の付いた首飾りをもらった。それを身につけるようになってからは何も起きなくなったが、感情に大きな揺れがあると勾玉が淡く発光するようになった。
しかし、こんなことぐらいで動揺していたらこれから始まる新しい生活を乗り切れないだろうと、自分の無能さに嫌気がさす。まあ、落ち込んでいても仕方がないのでとりあえず日課である自分にとっては気持ちを落ち着かせる儀式を行う。
香を焚き、その香りを体いっぱいに吸い込んで精神を一つにまとめる。十分な大きさにまとまった後、それを一気に薄く遠くまで広げる。
大きく円状に広げた感覚を使って、私は遠くを見る。
遠く、遠くまで。
だが次の瞬間、一気に感覚を引きもどして閉じた。
ゆっくりと目を開けると、目の前に大きな犬が佇んでいる。
「疾風、いつの間に私の部屋に入ってきてたの?」
私が差し出した手に疾風がすり寄ってくる。相変わらず可愛らしいなぁと思いながら疾風を撫でる。
「今日はどこまで行って来たの?」
わしゃわしゃと両手で疾風の毛を触りながら、私は先程の事を思い出す。
精神を沈める為の儀式。
そういう意味をあれは持っているが、なんだか今日はいつもと違う感覚がした。それを上手く言葉に言い表す事が出来ないが、とにかくいつもと違っていた。
不安を感じた私は、疾風から右手を離し、首に下げたお守りをギュッと握りしめた。
・・・
まあ、再び没案ですよ。へっ。
無知な私
彼が紹介してくれた少女は、私の姉のような存在になった。
恥ずかしがりながらその事を彼女に伝えると、温かい笑みが向けられた。それが嬉しくて、人目も憚らずに彼女に抱きついた。
大好きな二人。何時か彼らは結婚し、夫婦になると信じて疑わなかったある日。私は一緒にいる二人にその事を伝えた。
何時かのように彼女が温かく微笑んでくれると信じていた私は、今思えば愚かだった。
私が言葉を発した後、一瞬、時が凍ったような雰囲気を感じ、私は戸惑った。 取り繕う様に言葉を紡ぐ彼女と、そんな彼女を悲しげに見つめる彼の様子に、私は二度とこの事を口にしないと決めた。
信じてほしい想い 届かない願い 2
「安心してください。私は決して貴方からの愛を求めません」
美しい笑顔で紡がれた、残酷な言葉。いや、彼女にそう言わせてしまったことが残酷なのか。
以前の自分ならこの言葉で傷つくことはなかっただろう。ただ彼女の言葉を受け止め、少し面倒だと思うだけだっただろう。
「俺も愛いている」
そう告げると、彼女は驚いたような表情をして再びその言葉を告げる。
「私“は”貴方を愛していますよ?」
このまま自分は、一度も彼女に己の愛情を受け取ってもらえないのだろうか。
愛されているのに愛せない。
この時、初めて一方通行の想いを抱く切なさを覚えた。
信じてほしい想い 届かない願い 1
生まれたときからの許婚。
私とあの人の関係の始まりは、それに近いものだった。
私は生まれた瞬間、篠田家に引き取られた。自分を生んだ人間がどのような人なのか、なぜ私が篠田家に引き取られたのか、未だに私は知らない。
きっと私から養父らに聞けば、彼らは隠さず全て教えてくれただろう。だが、そのようなことを聞いて何になる。
私を育て、愛しんでれたのは篠田家の人々だ。
そして、篠田家の人々以外にも幼いころから私を可愛がってくれた人がいた。
その人は篠田家と懇意にしている天城家の次男で、5歳年上の彼は私の良き遊び相手となってくれていた。
今思えば、彼を頻繁に家に呼び私たちの仲を親密なものにしたのは、将来結婚する者同士にしたいが為であったのだろうと分かる。
その目論見は見事成功し、彼は私の心に大きな影響を与える存在となった。また、彼に対しても自分はそういう存在なのだろう。
それの認識が間違っていたとは今でも思わない。
私が中学生、彼が高校生の時。
彼が私に紹介したい人がいると言い、一人の少女に合わせてくれた。
笑顔の美しい、少女だった。