零れ話
ポッと浮かんだ話を無責任に投下。
愛の形
多くの人からの望みを託された男がいた。
明るく、朗らかで勇敢な男は、多くの人に好かれた。
そんな男のそばにはいつも1人の女性がいた。
それなりの器量を持つその女性は、男にとってかけがえのない人だった。
ずっと男をそばで支えた彼女と男が結ばれたのは必然だった。
戸惑いながらも男の申し出を受けた彼女。
だが、彼女には男には決して明かせない、胸に秘め続けた想いがあった。
彼女は男の親友のことがずっと好きであった。
寡黙であまり言葉を発しない。男と正反対な性格の親友が、時折見せる笑顔が彼女はとても好きだった。
親友のことが好きだからこそ、彼女は男の申し出を受けた。
愛する人である彼が、最も望んでいることは、男の幸せだったから。
男のために生涯をかける彼は、決して男が愛している彼女の想いを受け入れはしないと彼女はわかっていた。
だから、彼女は男を愛そうとした。やがて愛するようになった。
数年後、男の親友が身を固めると男から聞いた彼女は衝撃を受けた。
子が生まれ、男と共に子を育むうちに薄れていったと思っていた彼への思い。それが少しも衰えずに彼女の中には息づいていた。
胸に走る痛みで、そのことを彼女は自覚する。
相手の故郷で式を挙げると聞き、彼女は幼い子どもを理由に、男と一緒に式へ参列することを拒否した。
彼の隣に自分ではない女がいる光景を見てしまったら、今の幸せが壊れてしまうと彼女は確信していた。
男の親友が他の女と結ばれた日の夜。彼女はかつて彼からもらい、ずっと奥に仕舞っていた髪飾りを握りしめ、静かに涙を流した。
それから十数年、彼女は男の親友と会うことなく生きていく。
子が1人立ちした後、彼の重篤の知らせが男のもとに届いていた。
男と共に彼のもとへ向かった彼女は、昔のたくましい体を持っていた彼の、病によってやせ衰え、弱々しくなった姿を目にする。
彼の看病で無理がたたっていた彼の妻に代わり、彼女が少しの間、彼の看病をすると申し出る。
彼の妻は少し休むために、別室へと行く。
男も仕事で片付けなければならない案件があると言い残し、部屋を出ていった。
彼女は数十年ぶりに、彼と2人きりになった。
彼は彼女に色々なことを聞いた。
男の近況のこと、2人の子どものことを。
彼女は彼を喜ばせようと、沢山話をした。
男が酒を飲みすぎてやってしまった失敗や、やんちゃだった子どもが大人になり、手がかからなくなったことなど、男や子どもに関する事を、思いつく限り話す。
ある程度話終えた後、彼女は長く話過ぎたと反省し、彼に休むように促す。
掛け布団をなおそうとしたところで、彼に手を取られる。
驚く彼女に、彼は静かに言葉を紡ぐ。
君は、幸せか、と。
彼女は唇を噛み、崩れた笑顔で、あなたが幸せなら、と応えた。
それから数日後、男の親友は息を引き取った。
女は涙を流し、愛した人を思って、泣いた。
男の親友もまた、彼女を愛していた。
それでも、彼は彼女と共に生きる道を選ぶことはできなかった。
同じくらいに男のことも愛していたから。男が愛する女性を奪って共に生きる罪悪感に、彼は耐えられなかった。
明るく、朗らかで勇敢な男は、多くの人に好かれた。
そんな男のそばにはいつも1人の女性がいた。
それなりの器量を持つその女性は、男にとってかけがえのない人だった。
ずっと男をそばで支えた彼女と男が結ばれたのは必然だった。
戸惑いながらも男の申し出を受けた彼女。
だが、彼女には男には決して明かせない、胸に秘め続けた想いがあった。
彼女は男の親友のことがずっと好きであった。
寡黙であまり言葉を発しない。男と正反対な性格の親友が、時折見せる笑顔が彼女はとても好きだった。
親友のことが好きだからこそ、彼女は男の申し出を受けた。
愛する人である彼が、最も望んでいることは、男の幸せだったから。
男のために生涯をかける彼は、決して男が愛している彼女の想いを受け入れはしないと彼女はわかっていた。
だから、彼女は男を愛そうとした。やがて愛するようになった。
数年後、男の親友が身を固めると男から聞いた彼女は衝撃を受けた。
子が生まれ、男と共に子を育むうちに薄れていったと思っていた彼への思い。それが少しも衰えずに彼女の中には息づいていた。
胸に走る痛みで、そのことを彼女は自覚する。
相手の故郷で式を挙げると聞き、彼女は幼い子どもを理由に、男と一緒に式へ参列することを拒否した。
彼の隣に自分ではない女がいる光景を見てしまったら、今の幸せが壊れてしまうと彼女は確信していた。
男の親友が他の女と結ばれた日の夜。彼女はかつて彼からもらい、ずっと奥に仕舞っていた髪飾りを握りしめ、静かに涙を流した。
それから十数年、彼女は男の親友と会うことなく生きていく。
子が1人立ちした後、彼の重篤の知らせが男のもとに届いていた。
男と共に彼のもとへ向かった彼女は、昔のたくましい体を持っていた彼の、病によってやせ衰え、弱々しくなった姿を目にする。
彼の看病で無理がたたっていた彼の妻に代わり、彼女が少しの間、彼の看病をすると申し出る。
彼の妻は少し休むために、別室へと行く。
男も仕事で片付けなければならない案件があると言い残し、部屋を出ていった。
彼女は数十年ぶりに、彼と2人きりになった。
彼は彼女に色々なことを聞いた。
男の近況のこと、2人の子どものことを。
彼女は彼を喜ばせようと、沢山話をした。
男が酒を飲みすぎてやってしまった失敗や、やんちゃだった子どもが大人になり、手がかからなくなったことなど、男や子どもに関する事を、思いつく限り話す。
ある程度話終えた後、彼女は長く話過ぎたと反省し、彼に休むように促す。
掛け布団をなおそうとしたところで、彼に手を取られる。
驚く彼女に、彼は静かに言葉を紡ぐ。
君は、幸せか、と。
彼女は唇を噛み、崩れた笑顔で、あなたが幸せなら、と応えた。
それから数日後、男の親友は息を引き取った。
女は涙を流し、愛した人を思って、泣いた。
男の親友もまた、彼女を愛していた。
それでも、彼は彼女と共に生きる道を選ぶことはできなかった。
同じくらいに男のことも愛していたから。男が愛する女性を奪って共に生きる罪悪感に、彼は耐えられなかった。
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