零れ話
はじめまして1
ある穏やかな日。
私は自分の生きて来た時間を振り返る為、旅に出る。
「あの、こんにちわ」
最近の若者向けの喫茶店で待ち合わせをした。先に来ていたのであろう、前もって打ち合わせていた目印を持っている男性に話しかける。
「こんにちわ…貴女が札木巴恵さんですか」
その問いにはい、と答えると、男性は自分が座っている向かいの席に座るよう促した。
「はじめまして、白木といいます」
笑顔でそう名乗る男性にこちらも挨拶をした後、再び自己紹介をする。名乗り終わった時、店員が私の前に紅茶の入ったティーカップを置いた。まだ何も頼んでいない状態で飲み物が出て来た事に困惑し、店員を見るが、笑顔を返すだけでそのままテーブルから離れて行ってしまった。
そんなやり取りを見ていただろうに、男性は気にした風でもなく淡々と己のやるべき事を進めていく。
「早速ですが、依頼内容の確認をさせていただきます。ああ、飲物は私が先に注文させていただきました。ここの店のハーブティーは絶品ですから是非飲んでみて下さい」
私からのサービスです。と最後に付け加えられ、この飲物が来た経緯を知った。
「今回の依頼は、『貴女の生きて来た場所を巡る』というもので宜しいでしょうか」
テーブルの上に置いてあったファイルを見ながら此方に尋ねた事柄に、肯定の意を示す為頷く。
「では、こちらはその依頼を達成する為に全力でお手伝いさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
此方がお辞儀をすると、男性が「仕事ですから」と笑顔で返したが、それでも己の願いを叶えるために力を貸してくれるというのだ。だから再び宜しくお願いしますと言い、深くお辞儀をした。
その行動に男性は苦笑していたが、それ以上その事について何も言わず、話を先に進めた。