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没案2


 その沈黙を破ったのは青年だった。

「お初にお目にかかります。私は王国騎士団第三軍隊所属、ルインと申します。先日より国王陛下よりフィリネグレイア様の護衛の任を申し付かりました。以後お見知りおきを」

 そうして騎士の礼をとった青年をフィリネグレイアは内心呆気に取れられて見ていた。何という事だろう。どうして自分の護衛にこの人が付いているのだ。

「陛下が仰っていた護衛とは貴方の事だったのですね。宜しくお願い致します」

 動揺を覚られないよう、淑女の礼を完璧にやってのける。その間にフィリネグレイアは自分の心を落ち着かせようとした。

「本当は陛下からフィリネグレイア様の負担とならないよう、気付かれることなく影からお守りするようにと言われていたのですが。以後このような事がないよう気を引き締めていきますので、ご容赦下さい。」

 自分の失態を気に病んで表情を曇らせた青年に、フィリネグレイアは素直に自分の本心を言う。

「負担なんてとんでもない。わたくしの護衛をしていただいて、大変感謝しています。ですから、お気になさらずに」

「私にはもったいないお言葉です」

 そう言って謙虚な態度をとるルインに、フィリネグレイアは自分の立場の変化を改めて実感した。そして、言うべき言葉を間違ったとも感じた。
 今まで護衛する者を雇うという状況にも、立場にもいなかった為その人たちに対して自分がどのように対応すれば良いのか戸惑ってしまう。だが上に立つ者がそのような弱音を漏らしてはいけない。だから、先程の「申し訳ない」という感情を含ませた自分の言葉は、青年にかける言葉として不適切だった。
 ならば、自分はどのような態度と言葉で、このような人々に接すれば良いのだろうか。彼女はその答えがまだ明確には分からなかった。

「これからも宜しくお願いします、ルイン。わたくしは資料集めをしますので、これで失礼します」

 フィリネグレイアはそう言ってルインから離れ、最初の目的を果たすため行動を開始する。少し経ってから振り返ると、もうそこにルインの姿は無く、フィリネグレイアは彼が護衛に戻ったのを確認した。
 これは護衛と言う名目の監視だろうか。
 そんなことを考えながら、フィリネグレイアは本の内容を確認していく。自分からは確認できない国王からの護衛。自分の視界に入らないモノを常に警戒しているわけがない。護衛、という言葉でフィリネグレイアはその存在を特に気にしてはいなかったが、今回の事でその認識が覆される。
 此方から護衛を外す、または姿を現すように言っても請け合ってくれないだろう。


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