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大地が落ちたあと 1


 平原のずっと向こう、地面と空の間をぼんやりと眺めていたら、柔らかく温かいものが手に触れた。何だろうと下を見ると、羊が手と体の間に顔を入れようとしていた。少し手を上げて好きなようにさせてやる。
 さらに体にすり寄って甘えてくる羊の毛をゆっくり撫でながら周りを見渡す。
「イファ、戻るぞ」
 呼ばれてようやくイファは遠くを見ることをやめた。羊から手を離して歩き出す。
「はい、義父さん。みんな、帰るよ」
 イファが声をかけると、まだ草を食べていた羊たちが顔を上げた。彼女が歩き出すと羊たちものそのそ彼女の後に続いて動き出す。
 全ての羊たちが付いてきているか時々振り返って確認する。案の定立ち止まって草を食べ始めている羊を見つけ、口笛を吹いて注意を引く。置いて行くよ、と大きな声で呼びかければ少し急ぎ足で追いかけてくる。それを確認して再び前を向く。
 穏やかな風が吹き抜けていく。イファは平原に吹く風が好きだ。幼い頃は険しい山岳地帯に住んでおり、山々の間から吹き抜ける風は冷たく強かった。それに比べると平原の風は穏やかだ。養父母の世話になるようになって環境の違いに大いに驚いたのを今でも鮮明に覚えている。
 平原は優しい。日が出ている間は凍てつくような寒さもなく、地形による脅威もほとんど無い。
 この土地はとても心地よいのだが、イファは違和感を感じていた。自分はここではない所にいるべきなのではないか。そんな考えが時折脳裏に浮かぶ。今の生活に不満は一切ない。集落の外れに倒れていた素性の知れない上に名前以外何も話さない子供を養父母は引き取って育ててくれた。集落の人々もよそ者のイファを受け入れてくれている。
自分の中の違和感に目をそらしてイファは養父の後に続く。

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