零れ話
はじめまして2
「最初の目的地に行く前に、注意事項を説明します」
男性が提示してきた注意事項とは以下の事だった。
1.一人で行動しない事
2.知り合いを見ても決して話しかけない事
3.忠告を守る事
「最後に、この鈴を常に持っていて下さい」
男性が取り出し、テーブルに置いた鈴は小さく可愛らしいもので、紅い紐が付いたいた。
「身に着けていればいいんですか?」
置かれた鈴を受け取り手に乗せて見る。
「紐を使って腕につけるのが一番良いですが、衣服のポケットに入れておくだけでも大丈夫です」
「なら腕につけておきます。うっかりポッケから落ちたら、怖いですし」
私は赤い紐を使って左の手首に鈴をくくり付けた。
「以上で契約は完了です。早速ですが貴女の目的地へ向かいましょう」
男性から告げられてた言葉に肯き、鞄を持って男性と共に席を立った。
店を出る前、先程紅茶を運んでくれた店員さんに「ありがとうございました、お気を付けて」と声をかけられた。その言葉に私は振り返し軽く会釈する。店員さんは笑顔で返し、店から出る私を見送ってくれた。
はじめまして1
ある穏やかな日。
私は自分の生きて来た時間を振り返る為、旅に出る。
「あの、こんにちわ」
最近の若者向けの喫茶店で待ち合わせをした。先に来ていたのであろう、前もって打ち合わせていた目印を持っている男性に話しかける。
「こんにちわ…貴女が札木巴恵さんですか」
その問いにはい、と答えると、男性は自分が座っている向かいの席に座るよう促した。
「はじめまして、白木といいます」
笑顔でそう名乗る男性にこちらも挨拶をした後、再び自己紹介をする。名乗り終わった時、店員が私の前に紅茶の入ったティーカップを置いた。まだ何も頼んでいない状態で飲み物が出て来た事に困惑し、店員を見るが、笑顔を返すだけでそのままテーブルから離れて行ってしまった。
そんなやり取りを見ていただろうに、男性は気にした風でもなく淡々と己のやるべき事を進めていく。
「早速ですが、依頼内容の確認をさせていただきます。ああ、飲物は私が先に注文させていただきました。ここの店のハーブティーは絶品ですから是非飲んでみて下さい」
私からのサービスです。と最後に付け加えられ、この飲物が来た経緯を知った。
「今回の依頼は、『貴女の生きて来た場所を巡る』というもので宜しいでしょうか」
テーブルの上に置いてあったファイルを見ながら此方に尋ねた事柄に、肯定の意を示す為頷く。
「では、こちらはその依頼を達成する為に全力でお手伝いさせて頂きます」
「よろしくお願いします」
此方がお辞儀をすると、男性が「仕事ですから」と笑顔で返したが、それでも己の願いを叶えるために力を貸してくれるというのだ。だから再び宜しくお願いしますと言い、深くお辞儀をした。
その行動に男性は苦笑していたが、それ以上その事について何も言わず、話を先に進めた。